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NONIO ARTWAVE AWARD2019

結果発表

第一回目のNONIO ART WAVE AWARD 2019、日本全国から1632点の作品が集まりました。
ご応募いただきました皆様、ありがとうございました。
一次審査を通過した100点を対象に、2019年2月21日に最終審査を開催し、
グランプリ1名、準グランプリ2名、審査員特別賞5名を決定いたしました。

グランプリ・準グランプリの作品は限定パッケージとして商品化されました。

グランプリGRAND PRIX

screen+ #2
Terminal #1

諫山元貴

プロフィール

美術家。1987年生まれ。京都造形芸術大学卒業後、広島市立大学 大学院 芸術学研究科修了。「崩壊」をキーワードに均一化しつつある世界に奥行きや情緒を与えるイメージを映像や平面作品などで表現。主に、既製品の成形型でつくられた物体が水中で崩壊していく様を撮影した映像を国内外で展示、上映している。

コメント

私たちの気づかないところで刻々と変容、生成される世界が日常環境に潜むような作品を心がけているため、このたびのパッケージ化はそれが一つ形となり心から嬉しいです。アートにふれることを想定しない時に不意に手にとり、何気なく洗面台に置き、そして時に何かが変わっていくことを意識する機会になれば幸いです。

岩渕貞哉

一貫したテーマをもとに一歩ずつ思考を前に進めるように制作を続けている作家で、今後のさらなる展開が期待できる。受賞作については、現代を生きる私たちが意識することなく前提としている、コミュニケーションの基底を浮かび上がらせることで、逆説的にコミュニケーションへの希望を浮かび上がらせた。

石井孝之

水中に入れた固体がゆっくりと溶け出している瞬間を撮影したのか、あるいは動画の一部を切り抜いたものかは分かりませんでしたが、イメージ自体は宇宙空間に浮遊する物体のようで、とても神秘的な作品をつくる作家だと思いました。動画を大きくプロジェクションした状態でも鑑賞してみたいと思わせる作品でした。

木村絵理子

今回の選考では、NONIOの商品パッケージとなった時に作品の魅力が発揮されるかどうかだけでなく、アーティストとして今後の飛躍を期待できるかという点に重点をおいて検討した。元々は映像作品として制作された諌山氏の作品は、映像本来の制作過程やコンセプトが興味深く、加えて、そこから切り取ったイメージを提出するにあたり、アルミ板が透けて見える状態でプリントするというマテリアルへの挑戦にも可能性が感じられる。

名和晃平

一貫して水の中でオブジェクトが崩れていく作品を続けており、その制作姿勢に感銘を受けましたし、また少しずつ作品の質も上がっていっていると感じました。作品画像だけでは、魅力が全て伝わっているかが分かりませんが、背後にあるコンセプトが作品から感じられる点で評価しました。

やくしまるえつこ

例えばひとつの恋が見える景色を色づかせることがあるように、意識そのものがその意識下にプログラムを走らせるコードとなっているのだとしたら、それらをリセットするコードというのは彼の作品のような形をしているのかもしれない。

準グランプリSEMI-GRAND PRIX

タイム#2
タイム#9

内田涼

プロフィール

2015年 武蔵野美術大学油絵学科卒業。数年間の企業勤めを経た後、制作活動を再開。2017年「ASPアーティストインレジデンス」(ジョグジャカルタ)に参加。2018年 個展「とおりぬけて並走」(野方の空白)を開催。

コメント

この度は賞を与えて頂きありがとうございます。再現性の低いタイプの自分の作品が、パッケージ化に際して、まず画像となってPCに取り込まれ、デザイナーによってしかるべき場所に配置され、工場で大量に複製され、見ず知らずの人の手に渡り消費されていくサイクルに組み込まれることは、非常に面白いことだと思っています。

岩渕貞哉

水分を多く含ませることで滲みをつくりだして画面を構成していく「ステイニング」が多用されており、それがキャンバスの四方に展開されている。そのことで、キャンバスの中で「無重力」の状態が発生しているようで、見るものにある種の解放感を生じさせる。

石井孝之

「タイム#2」は上下左右に制作しているので、中心から四方に向かって視線が流れていき、それをまた切り取るような画面構成がとても効果的でした。カラフルでオプティカル・アートのような作風に関心を惹かれました。

木村絵理子

作品の多くが正方形の画面からなる内田氏の作品は、上下左右に画面を回転させながら描き進めていったことが想像される痕跡を残しており、このことが画面に重力を感じさせない独特の浮遊感と回転運動のリズムを与えている。提出作品以外にも多様なスタイルを持っているところに可能性が感じられた。

名和晃平

少し緩い感じは受けましたが、ペインティングの領域で、やろうとしたことや、やりたいことがとても伝わってきました。今、ペインティングの領域では、イメージとエフェクトが画面の中でリミックスしたような表現を多くの人がやろうとしているので、その中どうやってオリジナリティを出していくかが課題になっていくと思います。絵の具が幾つかの方向に垂れ下がっているものがあり、単にデジタルエフェクトをかけたものというより、それを物質に戻そうとする意識がユニークに感じられました。

やくしまるえつこ

アリやハチのように、人間もまた体内の細菌やDNAによる超個体であるという考え方がある。サイエンス・フィクション的にはハイブマインドと呼ばれる集合精神の一種であるが、彼女のコロニーのような作品からは各個体によるインプロビゼーションの気配を感じることができる。

抽出/描画
邂逅

諏訪葵

プロフィール

東京藝術大学 大学院 美術研究科 油画第五研究室に在学。 化学反応や物理的な現象を、人間が視覚的・体感的に感じるための仕掛けや、それらと出逢うための装置、空間、イメージなどを様々な表現形式で制作。近年では特にモノがもつ機能と、それらを感じる人間の身体的感覚との関係性をテーマとして扱っている。

コメント

自分が作ったイメージがパッケージ化されるという経験は初めてなので、受賞の連絡を受けて、とてもどきどきしています。そして、他に類を見ない貴重な経験をさせて頂けることを、大変光栄に存じます。この度は本当にありがとうございます。今後もこの経験を励みに邁進していきたいと思います。

岩渕貞哉

デジタルテクノロジーが発展した現代におけるリアリティを、アーティストとしての自らの身体的な知覚に立ち返ることで獲得することがモチーフになっている。まだまだ模索の段階だと思うが、制作への果敢なチャレンジが将来の展開を予感させる。

石井孝之

実際に科学実験を行い、それを美術表現としている作品なので、この2点だけでジャッジするのは難しかったのですが、コンセプト・シートを読むと、とても興味深い表現方法を駆使する作家だとわかりました。特に「邂逅」は3Dの抽象画をデジタル化して、キャンバスに2Dとしてプリントし、絵画作品として再びアナログに戻すという作業が非常に興味深かったです。

木村絵理子

今回提出されたのは、様々なマテリアルを用いて、それらが生み出す化学反応や光学的な実験を観測し、そこから生まれたイメージを別の媒体に定着させた作品である。しかし本来の作品は、実験と観測のプロセス自体を見せるインスタレーションと、観測されたイメージとの組み合わせからなるものであった。実験のプロセスに対する純粋な驚きと同時に、結果や結論が重視される現代の社会に対する皮肉めいた視座を示す作品とも感じられた。

名和晃平

出展作品だけだとよく分からないところもありましたが、ポートフォリオが面白かったです。スライムや液体を使った実験的なことを沢山しており、アーティストとして自分が取り組んでいることに近いものを感じ、直接会って話してみたいと思いました。

やくしまるえつこ

ソースコードから意図しない意識が立ち現れることを期待する観測者の視線は実験結果に影響を与えるだろうか。彼女の作品は音楽を奏でるオートマタに、絵を描くAIに、二重スリット実験の電子にコネクトするための装置のようでもある。

審査員特別賞JUDGE'S CHOICE

岩渕貞哉賞

未来都市ー色彩球

同じ形をしている部品を組み立て、別の部品になり、できた部品が、また別の部品と組み合わさります。その繰り返しにより徐々に巨大な機械都市になりました。 巨大タンクの中には過去の歴史と記憶から出てきた色を再現しながら保存しています。

柯毓珊

1986年 台湾・高雄市生まれ、台北市育ち。
2009年 台北藝術大学美術學科卒業。
2013年 台北藝術大学大学院美術研究科修士課程卒業。
2017年 東京藝術大学大学院美術研究科博士課程卒業。
現在 東京都在住・中国語と日本語の通訳をしつつ作家活動を続けている。

岩渕貞哉

シルクスクリーンと手描きの作業の上に緻密な未来都市が描かれる。そこでは、人の気配はなく、機械同士の新陳代謝的なコミュニケーションが視覚化されているが、なにか懐かしさのようなものも看取される。都市自体が身体性を持っているかのように見える。

石井孝之賞

MELTING FLOWERS #01

私たちは常に無防備だ。リアルでもネットでも誰かの視線、あるいは目に見えない何かにさらされている。それは紫外線や放射線、または監視カメラであったりする。その不可視にさらされ、花のイメージが漂白して、消滅していく様子を表現した。

中橋広光

1989年、富山県生まれ。名前の由来は、広い世界のどこにいても輝く光。 高校卒業後、長野県松本市へ。認知心理学者の菊池聡 氏の一言をきっかけに愛知県立芸術大学デザイン科に入学。卒業後、2015年、株式会社アマナへ入社。現在、株式会社アンにてフォトグラファーとして活動中。

石井孝之

まるで水彩画のように被写体のかたちが滲んでぼやけていたり、いくつも層が重なり合うことで画面に奥行があるように見え、抽象絵画を思わせるような写真作品でした。写真表現の幅の広がりを特に強く感じさせる作品だったので、今回審査員賞に選ばせて頂きました。

木村絵理子賞

wipe.21

なにが描かれているか、ということ以上に、どのようにして作られているか、ということに興味をもって制作しています。作品のメディウムにはシリコーンを使用しています。その人工的な素材としての質感に魅力を感じています。

午居悟

1989年生まれ。
2011年 京都精華大学 洋画コース 卒業。
2015年 武蔵野美術大学大学院油絵コース 卒業。
近年の個展に2018年「Liquid Action」(タカシソメミヤギャラリー)。
受賞歴、2012年「トーキョーワンダーウォール賞」、
2014年「トーキョーワンダーウォール賞」。

木村絵理子

タイトル通りに画面を「ふき取る」行為によって生み出された作品は、実物を前にすると当初想像した以上にパフォーマティブな作者の身体的な動きを感じさせる。提出された作品は抽象的なイメージからなる小品であったが、例えば眼前の風景や人物を拭きとるように、イメージの存在と不在との間を往還するような大作を見てみたいという期待を抱かせる作家であった。

名和晃平賞

Cell

電車の窓から見たマンションの群のライト。まるでそれが私には小さな部屋で輝き続ける細胞のように思えた。光をぼかすことによって光の円が細胞のように小さな点へと変わり、個になり、集結し、光が美しく現れた。

岡田舞子

日本写真芸術専門学校2014年卒業。
Kawaba New-Nature photo award2015 アート部門受賞。

名和晃平

一見すると単純な色のドット。Cellというコンセプトに還元するあまりにも潔い手法。作品としては小さく迫力に欠けるが、巨大なものを想像した時に潜在的な可能性を感じた。

やくしまるえつこ賞

communication shape

コミュニケーションの形は人それぞれ。時には角が立ちぶつかり合うことも、コミュニケーションを取れば丸くおさまる。そんな心の通うコミュニケーションをビジュアル化するイメージで作成しました。

鈴木友梨香

広告代理店でアートディレクター・グラフィックデザイナーを経験した後、フリーでアートディレクター・グラフィックデザイナー、アパレルのテキスタイルデザイナー・イラストレーターとして活動。 絵の具、色鉛筆などを使ったアナログなイラストとデジタルのイラストを組み合わせたデザインが得意。

やくしまるえつこ

AとGとCとTで多種多様な生命の設計図たるDNAを構成する有機塩基のように、この作品を構成しているそれぞれに異なった幾何学図形は、形状・構造の違うもの同士の接続や結合の連鎖が生み出す新しい未来の形を想像させる余白を持っている。

審査員

  • 岩渕貞哉

    岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)

    岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)

    1975年横浜市生まれ。1999年慶応義塾大学経済学部卒業。2002年に『美術手帖』編集部入社。2008年より編集長。美術出版社取締役。2017年、ウェブ版『美術手帖』をオープン。公募展の審査員やトークイベントの出演など、幅広い場面で現代のアートシーンに関わる。

    https://bijutsutecho.com/

  • 石井孝之

    石井孝之(タカ・イシイギャラリー代表)

    石井孝之(タカ・イシイギャラリー代表)

    1994年、東京にタカ・イシイギャラリーを開廊。四半世紀にわたり荒木経惟、森山大道など日本を代表する写真家や画家、新進気鋭の日本人作家の作品を扱う。同時にダン・グラハムやスターリング・ルビーなど、国際的に評価の高い海外作家の展覧会も多く開催し、欧米の現代美術の進運を積極的に日本に紹介している。

    http://www.takaishiigallery.com/jp/

  • 木村絵理子

    木村絵理子(キュレーター/横浜美術館主任学芸員)

    木村絵理子(キュレーター/横浜美術館主任学芸員)

    2000年より同館勤務、現代美術の展覧会を中心に企画。また2005・2014・2017年のヨコハマトリエンナーレを担当。横浜美術館での主な企画展に、「BODY/PLAY/POLITICS」展(2016年)、「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術」展(2013年、シンガポール美術館との共同企画)をはじめ、奈良美智展(2012年)、高嶺格展(2011年)、束芋展(2009 -10年)など。

    https://yokohama.art.museum/

  • 名和晃平

    名和晃平(彫刻家)

    名和晃平(彫刻家)

    1975年生まれ。京都を拠点に活動。2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。2009年、京都に創作のためのプラットフォーム「SANDWICH」を立ち上げる。独自の「PixCell」という概念を軸に、様々な素材とテクノロジーを駆使し、彫刻の新たな可能性を拡げている。 近年は建築や舞台のプロジェクト にも取り組み、空間とアートを同時に生み出している。

    http://sandwich-cpca.net

  • やくしまるえつこ

    やくしまるえつこ(音楽家/アーティスト)

    やくしまるえつこ(音楽家/アーティスト)

    アーティスト兼プロデューサーとして「相対性理論」など数々のプロジェクトを手がけ、ポップミュージックや実験音楽、アート、文筆などあらゆる領域を自在に横断し活躍。森美術館、金沢21世紀美術館、豊田市美術館、山口情報芸術センターなどでの作品展示も。バイオテクノロジーを用いた作品『わたしは人類』でアルスエレクトロニカ・STARTS PRIZE グランプリ受賞。近作に、相対性理論『NEO-FUTURE』。

    http://yakushimaruetsuko.com/

授賞式の様子

NONIO ART WAVE AWARD 2019

総括

まずは、第一回目となるアワードにもかかわらず多くの応募があったことに驚きました。このアワードの特徴はなんといっても、受賞作のイメージがパッケージとして商品化されるということです。作品に込められたメッセージが全国に届けられるというのは、アートの持つ希少性とは正反対の性質ですが、そこにまだ見ぬコミュニケーションの可能性を感じてくれたアーティストが多く参加してくれていました。ただ、審査の際には、パッケージとして流通して、実際にどのような化学反応が起きるかを事前に予想することはあまり意味がないので、アーティストの実力や将来性を重視して、選考が行われていきました。受賞者の方には、このまたとない経験が今後の制作にフィードバックされて新しい展開を生まれることを期待したいです。

『美術手帖』編集長
岩渕貞哉